経済学特別講義A(12月19日:第13回)

経済学特別講義A(12月19日:第13回)
投稿日時: 2015.01.07 (1329 ヒット)

 12月19日(金)の経済学特別講義(A)(3講時(13時10分から14時40分))において,北海道銀行 国際部長の佐々木 剛氏がゲストスピーカとして講義をされました.講義題目は「海外ビジネスと地域金融 〜極東ロシア編〜」でした.

 北海道銀行は,北海道内の取引先企業が海外ビジネスを展開する際に,本業である海外企業との間の代金決済や外国為替業務などを行うばかりでなく,海外への販路拡大,仕入れ先発掘・進出のサポートを商談会の開催等を通じ,営業店,国際部,海外駐在員事務所が一体となって積極的に支援しています.今日の講義では,北海道銀行が行っている取引先の海外ビジネス支援について,特に極東ロシアに的を絞って,道内企業の具体的な活動内容とそれに対するサポート内容について講義させて頂きます,と説明され講義に入られました.冒頭,北海道銀行は10年前に北陸銀行と経営統合し「ほくほくフィナンシャル・グループ(FG)」の傘下に入っていますが,グループ全体では現在,9カ所の海外駐在員事務所をもち,両行の取引先のサポートを行っているとの紹介がありました.また,具体的な話しに入る前に,ロシア連邦全体と極東地域の地勢や国勢を比較し,極東地域の特徴の概要を簡潔に述べられました.引き続き,講義の主たる目的であります道内企業の極東ロシアでの事業展開と北海道銀行の支援内容について写真等も盛り込みながら,説明されました.講義の概要は次の(1)から(7)であります:

1.極東ロシアについての説明
 極東ロシアは,3州(アムール,マガダン,サハリンの3州),サハ共和国,3地方(沿海州,ハバロフスク,カムチャッカの3地方),チュコト自治管区,ユダヤ自治州から構成されています.極東ロシアにおける経済の中心は,沿海州地方,ハバロフスク地方,ならびにサハリン州であり,北海道銀行も主にこれらの地域を中心に取引先のビジネス展開を支援しております.極東地方の面積は620万km2でロシア連邦の37%程を占めております.経済面については,リーマンショック後,2009年のロシア連邦全体のGDPの前年比が92.4%とマイナス成長となった一方,極東ロシアでは101.5%と,1999年以降,14年連続でプラス成長を維持しております.地域ごとの一人あたり域内総生産を見ると,極東ロシアはロシア全体と比べ高い数値を誇っています.特に,サハリン州は突出しており,首都モスクワを上回る実績となっております.平均賃金についても極東ロシアは全国平均を上回っている状況です.このようにロシア極東は,経済的には持続的な成長を遂げておりますが,その恩恵を享受できない人々を中心として人口の流出が進み,これによる人口減少がこの地域内での大きな問題となっています.これに対してロシア政府も危機感を持って対応しており,極東発展省を設置し,新型特区の創設準備を急ピッチで進めるなど,極東ロシアの開発を国家の最優先事項と位置づけている程です.

2.ウクライナ問題
 現在,欧米各国は,ロシアによるクリミア半島領有とその後の混乱に対し,ロシアに対し経済制裁を発動しています.この制裁は,ロシア国営・政府系銀行への融資禁止,資源開発のための設備・技術提供の禁止,武器輸出の禁止などですが,日本も欧米諸国同様,ロシアに対し制裁措置を発動しております.しかしながら,日本の制裁措置そのものの実効性は極めて小さいこと,安倍首相は,プーチン大統領と首相就任以来,6回の首脳会談を重ね信頼関係を構築していること,また,ロシア政府が対抗措置として発動した農畜産物輸入禁止制裁では日本国を対象外にしていることを考え合わせると、日本あるいは北海道の企業がロシア極東でビジネスを展開するにあたってウクライナ問題は大きな影響はなく,むしろ日本企業にとってはチャンスと捉えることができると考えております,と説明されました.

3.ロシアビジネスサポートの最前線の活動
 北海道銀行は,ロシア極東にユジノサハリンスク駐在員事務所(2009年3月開設)とウラジオストク駐在員事務所(2014年3月開設)の2拠点をもっています.これらの駐在員事務所は,ロシアビジネスサポートの最前線として,道内企業の極東でのビジネス展開のための情報収集と発信,取引先企業の極東出張時のアポ取りやアテンド,日本領事館やロシア中央銀行・現地民間金融機関との関係構築,ロシア企業の来所対応,現地日本人会活動への積極的関与,現地での商談会などの企画・運営等に携わっております.
 今年6月には取引先が極東ロシアを知り,ロシアビジネス発掘のきっかけをつかんでもらうことを目的としウラジオストクにて「極東ビジネス交流会inウラジオストク」を開催いたしました.交流会では現地ビジネス視察(具体的には,道内企業のモデルルーム,ソーラーズ物産,戸建て住宅建設現場,現地スーパーマーケット,花卉園芸施設,日本の化粧品取引店など)や道内企業によるロシア企業向けプレゼンテーションなどを実施いたしました.

4.北海道内企業のビジネス展開:事例紹介
(1)マンションの内装事業の展開
 ウラジオストクにて道内のハウスメーカーである螢蹈乾好曄璽猴佑,マンションの内装事業を展開しています.
 ロシアでは,新築のマンションの受け渡しは「スケルトン渡し」で行うことが一般的です.内装についてのデザイン設計会社もなく,一括して工事を行う業者もいないことから,購入者自らが,床や壁,キッチン,バスルームごと内装の手配を行う必要があります.ここに目をつけた当社は,設計・施工を一貫して行い,インテリアも全て日本から輸入するビジネスモデルを考え事業化を図りました.8月末には,モデルルームも完成し,すでに受注を受けるなど,事業は順調なスタートを切っております.

(2)北海道銀行の道内企業のビジネス展開へのサポート内容
 (株)ロゴスホーム様がウラジオストクでの内装事業を開始するまで,北海道銀行がどのようなサポートを行ってきたかについて紹介されました.
 最初に行ったのは,現地ビジネス交流会への参加勧誘です.ロシアでのビジネスに興味を持っていた同社を「道銀ロシア極東寒冷地住宅関連研究会」(ジェトロの地域間交流促進事業)にお誘いし,現地で行った視察会へ参加いただいたほか,ロシア企業に対し,自社のビジネスについてプレゼンして頂く機会を提供いたしました.次に,事業化に向けたサポートについては,現地責任者としての日本人の紹介,現地法人設立に際しての会計事務所の紹介やモデルルーム開設場所の紹介,売買契約書の和訳など多岐にわたる支援を実施いたしました.さらに,パネルによってモデルルームのロシア語で綴られた写真広告を示され,現地でのPRも支援させていただいております,と説明されました.

5.極東ロシアの農業事情の一端
 極東ロシアにおけるアグリビジネスについての話しの前段として,極東の農産物事情についてお話しいたします.郊外のマーケットで販売されている果物や果実は,ウズベキスタン,カザフタンやアゼルバイジャンなどの中央アジアを原産地とするものが多い状況です.また,地元スーパーでは,キャベツ,白菜,大根,タマネギ,カボチャ,トマト,ミニトマト、キュウリなど豊富な種類の野菜が販売されています.また,ソ連時代からロシアの人々は郊外に菜園付きセカンドハウス(ダーチャと呼ばれる)を所有し,週末には、そこに行って農作業をし,野菜を栽培しております.夏期の間は,そこで野菜を作ることができますが,冬期には野菜栽培ができなくなるため,野菜の価格は高騰します.また,輸入野菜は主に中国からですが,ロシアも例外なく安全志向が高まっており,中国野菜を避ける傾向が生じております,と解説されました.

6.A社の温室野菜栽培への参入と北海道銀行のサポート
 東証一部上場のA社は現在,極東ロシアで大規模な温室野菜栽培事業の計画を進めています.極東ロシアに設立する現地法人が,温室栽培によりキュウリやトマトを栽培し地元スーパーに供給するものです.さらに,日本の農産物や食品の輸入販売をも視野に入れています.道内企業の中には,ロシア企業は信用できないと感じている先も多い中,日系企業であるA社の現地法人を取引相手とすることにより,この不安を払拭し,温室栽培施設への資材供給や,道内農産物の輸出相手として道内企業の参画が期待されます,と語られました.

7.道北6都市あるいは道北9都市物産展
昨年9月,ユジノサハリンスクにおいて,道北6都市物産展が開催されました.この物産展は旭川市が中心となり稚内,名寄,士別,留萌,紋別市により開催されたものですが,その目的は稚内とコルサコフ間のフェリー定期航路を利用して道北6都市の農産物や食品をサハリンに輸出することを目的としたものです.今年は,富良野,芦別,深川の3市が加わり,道東9都市物産展として開催されました.北海道銀行は,この物産展にも全面的に協力しております,と話されました.
物産展の意義は,販路拡大のために海外の消費者に広報(PR)することであり,輸送費用や関税などの諸経費は補助金で賄われることが多く,物産展では物産の販売価格を低く抑えることは可能であります.このことも作用して物産展は盛況の内に終わるのが一般的ですが,ビジネスとしては諸経費を価格に転嫁すると消費者に受け入れられないことが多く,このあたりに輸出の難しさがあります,と説明されました.

 最後に、最近のルーブル安の状況下でのロシア経済について説明されました.11月21日にOPECが原油の生産量を据え置くと決定いたしました.この決定は原油の超過供給を意味し,原油価格の低下をもたらし、ガソリンや灯油などの価格も下がり,消費者にとっては好都合かも知れませんが,財政収入の半分近くを原油に依存しているロシアにとっては,原油価格の低下は大きな打撃となり,現在のルーブル大暴落が発生いたしました.ロシア政府はルーブル安を避けるために金利を続けざまに引き上げ,政策金利を17%にまで引き上げております.同時に,ルーブル安のためにロシアでは輸入インフレの状態になりつつあり,今後のロシア経済の成り行きをしっかりと見て行く必要があらいます.もっともプーチン大統領は強気の発言をしており,最長でも2年程度でこの問題は解決できると主張しています,と解説されました.

 受講者からの質問として,「農産物の輸出の話しがあったが,水産物の輸出はないのですか」,「昔,ロシアで事業を行った友人が,突然,法律変更となり,事業を乗っ取られたことがあった.現在も,そのようなリスクは存在するのですか」の2つがだされました.水産物輸出については,現在,圧倒的に北海道の輸入が中心であり,輸出はないこと,法律の突然の変更に伴う事業継続リスクについては,プーチン大統領が極東の経済発展に非常に力を入れている現状,そのようなリスクは全くないとの説明がなされました.

 講師をお引き受けして頂きました北海道銀行 国際部 部長の佐々木 剛様には深く感謝致します.

経済学部 久保田 義弘